産経新聞2014年9月6日

https://www.sankei.com/life/news/140906/lif1409060005-n1.html

 バッカーズ寺子屋では卒塾生を対象とした合宿を夏休みに開催する。日本各地を訪ね文化・歴史・芸術・自然・国際関係・社会問題など幅広く学ぶ。今年、九州の卒塾生とは鹿児島を訪ねた。維新ふるさと館、知覧特攻平和会館、富屋旅館などが主な訪問先だ。戦争の悲惨さのみ強調し、反戦平和を唱えさせるような平和学習ではない、イデオロギーにとらわれぬリアリティーのある学びを構築し、卒塾生と共有してみたかった。

 意識した「学び方」のポイントは5つある。第1に「なぜ戦争は起こるのか」「どうすれば戦争を回避できるのか」という論理的思考を一貫して重視すること。第2に特攻隊員の遺影や遺書から伝わってくる先人たちの心情や人生観や人間性を深く感じ取ること。第3に情報をうのみにせず、情報の真贋(しんがん)を見抜く目を持つ大切さを知ること。第4にそれぞれの国の歴史・宗教・文化・地理的条件を踏まえ、戦争という一つの事象を多面的にとらえること。第5に歴史は先人たちの生命の連続性そのものであり自らの生の由来であると気づくこと(それが祖先への感謝と自己尊重の意識につながる)。

 事前学習には、戦争を題材にした映画ではなく、『さくら、さくら』を選んだ。タカジアスターゼを発見し、アドレナリンの結晶化に成功した化学者・高峰譲吉の生涯を描いた映画だ。高峰は日本の化学を発展させるため、官僚の地位を捨て、アメリカでの研究に取り組む。開発後、アメリカの大手製薬会社と販売契約を結ぶが、日本での販売権については断固として契約からの除外を求める。

 当時まだ貧しかった日本の人々が、広く薬の恩恵に与(あずか)るようにとの思いからだ。そのことで高峰は契約金を引き下げられるが、私利よりも公利を重んじる精神は微塵(みじん)も揺るがなかった。高峰は日米の懸け橋とならんと生涯尽力し、ワシントンDCポトマック河畔に寄付した3千本の桜は、今も美しく咲き誇る。このような高峰の人生をもってしても日米開戦への流れは止まらなかった。だが、もし平和的に戦争を抑止する道があるとすれば、それは一人でも多くの日本人が、高峰のように世界に通用する仕事を成し遂げ、海外の人々から尊敬と信頼と感謝とを得、深い友情を育んでいくことだ。

 卒塾生合宿では、学年を超え多様な価値観と情報とを持つ卒塾生同士が大いに語り合う。米国に留学していた高校生は「日本に原爆を落としたのは戦争の早期終結のため正しかった」「真珠湾は米国が仕掛けた策略だ」と当然のように発言する米国のクラスメートとの議論で、日本の教育との大きなギャップに戸惑ったと語った。また、一人の中学生は薩英戦争について、「戦争は悲惨なだけで何も生み出さないと思っていた。しかし、薩摩藩は英国と戦い、敗れたからこそ、15人もの若者を英国に留学させた。それが日本の近代化の大きな原動力になったと気づいた」と語った。「愛国心とは」「国とは」というテーマにも自発的に議論が及んだ。

 グローバル化する社会では、議論し、思考力を高め、自己の考えを確立することがより一層求められる。だから「学び方」を変えることがいま喫緊の課題なのだ。そして結局は私たちが如何(いか)に志高く生きるかが、平和な社会の実現に直接関わっているということを、何より自覚しなければならない。

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