産経新聞 2019年3月6日
https://www.sankei.com/life/news/190306/lif1903060015-n1.html
国際社会の中で日本人の弱点や欠点とされていることがいくつかある。「会議では意見を言わない」「集団の陰に隠れて矢面に立たない」「自分は安全な位置にいて批判・評論だけする」「チャレンジ精神に乏しく消極的」「意思決定が遅い」などだ。こうした資質は先天的なものではなく、子供の頃に受けた教育の中で身に付く仕組みが(教師の意図とは別に)知らぬ間にできているのではないか。日本人の素晴らしい点はもちろんたくさんある。だが気づかぬうちに「弱み」が育成されぬよう留意したい。
弱みの一つに、自分の考えを持たず、発言したがらないことがある。学校での学びには公平な評価が必要だ。だからテストがあり学ぶことには正解がある。その当然の前提が「知らないこと=良くないこと」という意識をつくる。「そんなことも知らないの」とクラスメートや先生に笑われた経験は誰にでもあるだろう。その結果、「正しい答えは必ずあるものだ」「間違えたら無知をさらすことになり恥ずかしい」との意識が醸成され先生からの指名という危険をできるだけ回避したい心の習慣ができる。教師が指名すると「なんで私?」という顔をしたり、咄嗟(とっさ)に自分の後ろを振り向いて指名されたのは私ではなく後ろの人?というポーズをとるのは「指名されること=嫌なこと」という意識があるからだ。
違う意見を言うと笑われる危険性があるので「同じです」という答え方は、授業でも学級会でも安全な答え方としてよく使われる。答えが間違っていても、「みんなと同じ」である方が安全で心地よいのだ。こうした経験を小中高と積み重ねた結果、大人たちは講演や研修の場では、できるだけ後方の席からしか座らないようになる。指名される危険を回避する最善の方法だ。後ろの席から高みの見物をする習慣は、「ものは言わぬが勝ち」「当事者にならず評論する方が賢明」という心の習慣を次第に育む。
知らないことや問題が解けないことを恥ずかしがる一方で、「教えてもらっていないことはできなくて当然」「教えていない方が悪い」という思考回路も形成される。大人になってからの指示待ちの姿勢と失敗を恐れる姿勢につながり、企業研修での大きな課題となっている。国内外の会議でもだんまりを決め込み、自分の意見を持たず付和雷同する人たちは、会議後、決定されたことへの批判を仲間内で活発に意見交換し、フラストレーションを解消する。