産経新聞2017年12月27日
https://www.sankei.com/life/news/171227/lif1712270007-n1.html
活力があり起業する若者たちの存在もあれば、生きる目的を見いだせず漂うように生きる若者たちの姿もある。活力の無さは表情、声、姿勢、目の輝き、挨拶、会話、様々(さまざま)な所に表れる。若者たちが活力を高める上で大切なポイントが3つある。
1つ目は、いかに自分の限界を低く決めつけ、人生の可能性を狭めているかに気づかせることだ。人生100年の時代に、たかだか中高6年間の受験勉強の成績や学校での人間関係がうまくいかなかったからといって自分への自信を失い、人生に夢や希望を見いだせない若者たちが生み出されるのは大きな社会的損失だ。「夢とは」「ビジョンとは」「志とは」「失敗とは」「努力とは」「学問とは」「人生とは」、様々な哲学的テーマに真正面から向き合うことで学生たちは深く考え始める。
私は専門学校で「志」をテーマに全8回の講座を行う。毎回の講座の後で、所謂(いわゆる)、良いことや綺麗(きれい)ごとではなく、本当に感じたこと気づいたこと考えたことを、1200字程度のリポートとして提出を求める。
「リポートを書くのが億劫(おっくう)だったのは、綺麗事ばかり書こうとするからだったと思います。それを意識しなくなって私は自然に書けるようになりました」。学生の言葉だ。自分の言葉で書かれた心に響くリポートは、名前と筆跡がわからぬようタイプして、次の講義の冒頭で全員に配布し読む。そこで学生たちは、初めて自分と同じように悩み傷つきながら生きている仲間たちの存在を実感する。
「クラスメートの思ったことや感じたこと、体験談を聴き、いろいろな思いを持った人がいることに気づかされました。私と同じように不安だった人も、私同様、気持ちの持ち方が変わりうれしく思いました。気持ちの持ちようで人は本当に変われるのだとわかりました」。毎回全員のリポートにコメントを付けて返却する。「先生の感想が書かれて返ってくるのがいつも楽しみです。それはある意味、私の光であり、真剣に話を聴いてくれる大人の意見でもあり、凄(すご)く励みになります」。手間暇のかかることだが師友との心の交流の中でこそ若者の心は成長する。
2つ目のポイントは、人生は一度きりであることを深く伝えることだ。「メメント・モリ」(「自分がいつか必ず死ぬ事を忘れるな」)この意識が、日々の「生」の輪郭を明確にする。「今、この瞬間にも誰かが苦しみ、惜しくも亡くなっているという事実を受け止め、いかに充実して時を過ごすことが大事であるかを深く認識しました」。この気づきと自覚が、若者の「生きる力」へと繋(つな)がる。
3つ目のポイントは、飾らぬ自分の言葉で思いを語ることだ。最終講座では、一人一人が全講座の感想を3分間で話す。「自分の言葉で自分の考えを伝え、誰かに理解してもらうことはとても幸せで楽しいことです。もっと人前で自分の考えを話したい。自分という人間を知ってほしいと思いました」「最終講座でみんなの発表を聴いて大変感動しました。みんなの思いが凄く伝わってきて、これが言葉の力なのかと感銘を受けました」。学生は級友の言葉に感動し、共に学び合い成長する。
今の教育に欠けているものは何かを学生たちの言葉は雄弁に物語っている。要は人生の座標軸を見いだすために必要な学びが足りないのだ。それは様々な生き方や考え方に触れ、友人との精神的交流を深め、自分と向き合うことだ。それらの大切さを伝えるには、教師自身がそのように生きるしかない。何のための教育か。問われているのは教師自身の志と生き方なのだ。
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