産経新聞2017年5月17日
https://www.sankei.com/life/news/170517/lif1705170021-n1.html

 10歳から15歳の子供たちが1年間(月2回程度)企業トップたちに学ぶバッカーズ寺子屋では、既存の考え方とは違う教育方法で成果をあげている。

 まず第1に学校も学年も異なるメンバー20名程度で社会のことやプリンシプルを学ぶ。学校も学年も異なるから、助け合い、刺激し合い、尊重し合い、切磋琢磨(せっさたくま)して学び合うメリットが生まれる。同調圧力が働かないことで楽しく学び合うことができるのだ。小学4年生から中学3年生までの子供たちを見ていると、確かに理解力は上級生の方が上かもしれないが、それも絶対的ではない。人として大切なことを「感じ取る力」に至っては学年は全く関係ない。

 第2に9時から16時までの講座に1コマ何分という制約はなく、区切りの良い所で休憩をとる。当初、今時の小学生にそんな集中力はないと周囲に言われたが、塾生たちは90分でも120分でも平気で集中して講座に参加している。大切なのは、講座の内容と質、そして、伝えたい本気の思いだ。

 第3に感じたこと気づいたことを中心に、毎講座、A4で横罫(けい)のみ28行のリポート用紙に2枚書く。1行に25字書けば1400字程になる。量から質は生まれる。沢山(たくさん)書いていると、次第に内容も充実し、文字もしっかりしてくるから不思議だ。1年の終わりには、1時間もかからず2枚を書き上げる塾生も少なくない。「書き方」以前に「聴き方」「考える力」が身につけば「書く力」は伸びる。

 第4に原稿を一切見ずに3分間程度のスピーチができるようトレーニングを積む。紙に書いた原稿を相手に話すのではなく、聴き手の目を見て思いを伝える。フレームワークを教え、自分の体験や自分の考えを語る。「良いことを言う必要はない」「言い間違えないよう話すことが良いスピーチではない」。この2つを徹底して指導する。

 第5に失敗を奨励する。合宿中、普段着のまま磯で遊んでいて海に落ちてびしょ濡(ぬ)れになったり、バーベキューの味がグループ全体で変な味になったりしても、みんなで大笑いしている。失敗させないように先回りする指導はしない。失敗から何を学ぶかが大切だ。与えられたものはすぐに忘れるが、自分で気づいて掴(つか)んだ事は忘れない。できなかったことをできるようにすることが教育だ。叱ることも褒めることも手段・方法であって目的ではない。

 第6にできない理由を探さないことだ。卒塾前に維新の志士たちが歩いた「萩往還」約30キロを1日で歩く研修を行う。雨天決行だ。晴れていても山道の30キロは大変だ。足を痛める塾生もいる。それでも12年間、誰一人途中でリタイアした塾生はいない。目標設定の大切さ、言葉の力の大きさ、仲間の大切さ、一歩を踏み出し続けることの大切さなどに自ら気づいていく。体験を通しての学びは心に深く刻まれる。

 6月の卒塾を前に今、3千字程度の卒塾リポートが私の手元に届いている。「自分に自信が持てるようになった」「将来の事をよく考えるようになった」「日本の文化、伝統に対しての愛がはっきりと感じられるようになった」「学び取ったことで毎日を思考、勇気づけられている」「目標を明確にし目標のレベルを上げるようにしている」「話す事、聴く事は相手との関係を大切にする事だと学んだ」「周りに明るくなったねと言われる」。そして「志の大切さを学んだ」。心からのメッセージが並ぶ。「卒塾したくない」。この言葉が何よりの評価だ。この教育方法を一人でも多くの人に伝えていく事が私の志だ。

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